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【笑説】憧れのBar(第2章)

憧れのバー

早めに酔ってもらったら、なんか良いことあるかもしれん。そりゃあね、僕だって男ですよ。うん、僕は最低だ。

『う~ん。じゃあそれで。』

よし!ごちそうさまです。

『すみません、チェリーブロッサム一つ。』

『はいチェリーブロッサムでございますね。お客様は?』

おっと、そうか。自分も頼まなくては・・・。すっかりそっちのことばかり考えていたせいで忘れていた。

『えっと、ジ、ジン!!』

『はい、ジンでございますね?何にしましょう?』

は??ジンだっつってんだろ。

『えと、ジン。』

『はい。ジンの何にしましょう?』

僕は訳がわからない。このバーテンは俺を小馬鹿にしてんのか??

『え??ウォッカ??』

僕は訳のわからない事を言い出す。

それを察したバーテンがすかさずメニューを指差す。

『ジンにも多数種類がございます。こちらをご参考になさってください。』

メニューを観ると、ジンと書かれた欄には、ビフィーター、タンカレー、ボンベイサファイアなどなど、様々な種類が並んでいる。

『いや、あなたのオススメを呑もうと思ってね。』

これまたうまくごまかした。きっとこんな常連だっているはずだ。

『それでは、ビフィーターなどいかがでしょう?』

『それで。』

僕はバーテンを指差して言う。

『お飲み方は?』

『え、と、コップに入れて貰えれば・・・。』

コップ。せめてグラスと言いたかった。

そしてバーテンの意図はそんなことじゃあない。ロック、水割り、ストレート、ひいてはシングル、ダブルとある。

『そのまま、ストレートでよろしいですか?』

『今日はそんな気分なんだ。』

『かしこまりました。』

いぶかしげに応えるとバーテンは作り始める。

『あ、氷を少し多めにして貰えるかな?』

バーテンの手が止まる。

『え、と。ロックですか?』

『悪いが今日はストレートの気分なんだ。』

少し知ったかぶりで反抗してみるが、ロックの氷なしが、ストレート。

僕はストレートの氷を多くしろとほざいたのだ。

『かしこまりました。』

ややの沈黙ののちバーテンが応える。

 

程なく僕の手元には、ビフィータージンのロックが差し出された。

『ストレート・・・、の氷多めで。』

気の利いたバーテンダーの一言に僕は気づかない。

『ありがとう。』

僕は紳士的に応えた。

かなり小さめの、しかしお洒落な感じのグラスに注がれたジン。グラスはバーの淡い光に照らされて無数の乱反射光を創り出した。この薄明るい電球光がかもしだす雰囲気もまた、ここの大人達を酔わせていくのだろう。そして僕もまたその一員になっているという事が嬉しくてたまらなかった。

僕がその美しく輝くグラスに注がれたジンを観てまず想ったこと、

 

少な!!!

 

ただでさえ小さいグラスに注がれたジンは、その、かさで言えば五ミリ程度であった。

なるほど小洒落た冗談だ。僕は紳士的に笑いながらバーテンに問う。

『あっはっは。悪い冗談じゃないですか。こんな少ない量なら、アリでも飲み干してしまうよ。』

僕はバーテンの大人のジョークに、大人のジョークで返した。

『え?ダブルでした?』

バーテンダーが血相を変えて問い返してくる。

ん??大人のジョークじゃないのか?

『え?バーボン??』

僕の発言はもはや無能の塊だ。

察知したバーテンダーが優しく語りかけてくる。

『お客様、お酒がお強いのですね。追加のご注文でしたらよろこんで承ります。』

『商売が上手だね。今夜は騙されてしまいそうだ。』

僕は出来る限りこの一連の会話をごまかした。

つもりだった。

彼女がこっちを観ている。

『本当に何回も来ているの?』

『やれやれ、大人のジョークだよ。』

僕は大袈裟に両手で呆れた素振りをしてみせた。

『シングルだぜ?』

『そう・・・。』

とりあえずその場はごまかせたようだ。

さて、とりあえず乾杯といこう。

『乾杯』

『乾杯!!!!』

みんながこっちを観ている。しまった、居酒屋感覚で僕は乾杯の声を張ってしまったようだ。咳払いをしてグラスを交わす。

チン!

この静かな空間に響きわたるグラスの音。たまらなく良い。

ああ、僕はバーに来ている。

チアーズ!

僕は興奮に乗じて彼女が興味を持ちそうなうんちくを語りだす。

『ねえ知ってる?東南アジアの方の国では、乾杯のことを、コンペイ!っていうところがあるんだよ?なんか、不思議な共通点だよね?』

『ふーん。』

興味がなかったようだ。

この分だと、今日の戦いは厳しいモノになりそうだ。

と、この状況を打開する良いものを僕は見つけた。

バー

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