【笑説】憧れのBar(第3章)

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憧れのバー

僕は興奮に乗じて彼女が興味を持ちそうなうんちくを語りだす。

『ねえ知ってる?東南アジアの方の国では、乾杯のことを、コンペイ!っていうところがあるんだよ?なんか、不思議な共通点だよね?』

『ふーん。』

興味がなかったようだ。

この分だと、今日の戦いは厳しいモノになりそうだ。

と、この状況を打開する良いものを僕は見つけた。

ちょうどバーカウンターの中心あたりに吊してあるイルカの形をした小さなガラス細工。やはり僕らのグラスと同じように美しく輝いている。

『あ、ほらあそこ観てごらん。イルカが吊してあるよ。なんかキレイでいいね?』

『え?あれってジュゴンじゃない?』

『はっはっは。おいおい、なんでジュゴンなんだよ。ここはドルフィンって店だぜ?ねえ、お兄さん。それ、イルカでしょ?』

僕はバーテンに話しかける。

『ジュゴンです。』

『なるほど。』

僕は子供の頃からよくわからないことは取りあえず納得する事に決めている。

『ほ乳類で統一したってわけね。』

僕は子供の頃からよくわからないことは無理やりこじつけて納得するようにしている。

たぶんこの店がオブジェやなにやらをほ乳類で統一する必要はないのだ。

『あ、ねえ、知っているかい?』

『知らない。』

オーケー。君は何も知らない。僕はかまわず続ける。

『ジュゴンって、顔がブタみたいで、眉毛があって、しかも胴体が人間に似ているんだ。だから昔の人が言う人魚てのは、ジュゴンじゃないかって言われているんだよ。』

『知ってる。』

オーケー。君はなんだって知っている。

僕の経験上、やはり今夜は厳しい戦いになりそうだ・・・。

『ねえ?飲まないの?』

『え?ああ、ごめんごめん。』

と、彼女のグラスを観るとすでにきついカクテルと言われるチェリーブロッサムを飲み干している。

『うわ!もう飲んだの??強いね?結構飲めるんだ?』

『え~、別に普通くらいだと思うよ。』

『カクテルでどのくらいいける?』

『少なくとも40杯くらいかな。』

オーケー。今夜は財布の許す限り飲み明かそうじゃないか。

『どんどん飲んでね?』

『もちろん。』

僕は無理矢理、笑顔をつくってみせた。

やはり、やはり今夜は厳しい戦いになりそうだ・・・。

僕はグラスを傾ける。

そして喉の奥にゆっくりとジンを流し込む。

!!!!!

熱い。喉が熱いよぅ。

氷でキンキンに冷えているはずのジンは僕の喉を通ると同時に急に熱をもったようだ・・・。食道から胃に向かうまで、今どのあたりを通っているのかがわかる。思わず口を閉じると、口一杯にジン独特の香りが包み込み、それが鼻にツンという痛みを残して消えていった・・・。

僕はしばらくしゃべれなくなる。

彼女が問う、

『大丈夫??』

「もちろん。ぜんぜん平気だよ。」

と、ジェスチャーで伝える。

『本当に大丈夫?』

『う゛う゛ん!!ふ~。全然大丈夫さ。ついおいしくてね。』

『そう。ならいいけど・・・。』

『まあ、今日はゆっくり話でもしながら飲もうか。』

そうだ、ここらあたりで彼女のタイプを聞いておこう。

『ねえ、そういえばさ、どんな人がタイプなの?』

『マティーニ。』

マティーニ。ジンにベルモットという白ワイン。そしてオリーブがトッピングされるきつめのカクテル。

つまり彼女のタイプは、僕ではないようだ。

もしくは僕の話を聞いていないかどちらかだ。

『え?ごめん、あたしに聞いた?』

君以外に誰がいるんだい??

僕はほら、独り言をこんなバーに来てまで発信しないタイプの人間だ。

『そうだね。君はどんな男がタイプなんだい?』

『今の彼氏かな。』

へえ~。いたのか。

『それはそうだろうね。』

僕はカクテルの種類なんかを勉強するまえに、彼女に彼氏がいるかどうかを調べておくべきだった。

『そっか。じゃあ、嫌いなタイプは?』

『ん~。聞いてもいないのに、自分の知識をひけらかそうとする人。』

なるほど。例えばカクテルのことをやけにしゃべってみたり、ジュゴンの伝説を語ってみたりするヤツだね。

『もしも素敵な女性の話も聞かずに、自分のことばかりを話している男がいたとしたら、そいつは最低だ。』

『後は、お酒で女を落とそうとする人かな。』

『考えられないね。ぞっとするよ。』

僕は大袈裟に首を振った。そして帰りたくなった。

と、彼女の携帯が目に入る。薄暗くてよく分からないが、二人の人間が映っている写真が貼ってある。そして指にはリングがしてあった。

僕は途端に胸がしめつけられる。

男とは女以上に繊細で、そういう些細な事までさりげなく観察しているものだ。そして一喜一憂をしては次の恋に逃げ出したりする。

友人に話せば、なんだそんなこと、と言われそうな事でも以外に神経質になるものだ。特にいつも身につけているものや携帯のストラップなんかも、以外に重要だったりする。少なくとも僕はそういう人間だ。

と、彼女の携帯が鳴る。

僕は想像以上にビックリする。

『あ、ごめんなさい。ちょっと出てもいいかしら?』

『もちろん。』

僕はこういうときどうしたら良いのか分からなくなる。二人で飲みに来ているのに、電話に出られて、取り残された方はどうすればいいのだ・・・。

とりわけ興味もないのに、手相なんかを観てみたりする。

とりわけ知識もないので、なにがなんだかわからないモノだ。

こんなことなら、手相の勉強もしてくるべきだった。

『そのまえに、ブラッティーメアリーもらえます?』

彼女がバーテンダーにそう言い。

「かしこまりました」

とバーテンダーが言う。なに、バーでは当たり前のやりとりだ。

『もしもし。え?今?全然大丈夫。』

こういうの嫌。だって、全然大丈夫じゃねえじゃん。

『え?今から?行く行く~。』

え・・・。嘘だろ。最低だ。でもこの場合、楽しい場を作れなかった自分にも責任がある、

と、思いこむ。

電話を切ると彼女は言う。

バー