「お、いいね~。ビールある?」
「ごめん、今切らしちゃってて・・・。」
「じゃあ、ウイスキーは?」
彼女は黙って首を振る。そうか、女の子だもんな。缶チューハイか、果実酒とかしかないか。
「ん~、逆に何があるかな?」
「グサノロホ」
「・・・・・・。」
僕は少し上のほうを見つめながら考える。そしてそれを諦めもう一度聞く。
「なにがあるって?」
「グ・サ・ノ・ロ・ホ。テキーラよ。ちょっと持ってきてあげる。」
彼女はひょいと立ち上がるとキッチンの方へ掛けていき、すぐに戻ってきた。
「これこれ~。なんと中には芋虫がはいってま~す。」
お披露目するようにボトルを渡してくる。本当だ。ボトルの中で芋虫が一匹だけユラユラしてる・・・。
女の子だもんね。テキーラだし、芋虫さ。
「意外だね。テキーラなんか飲むんだ?」
「ちょっとだけね。そんなことよりその芋虫に惹かれて買ったのよ。」
「だろうね。」
何しろ君は女の子だもん。
「なかなか出てきてくれないのよ。」
僕から取り返したボトルの中のイモムシに話しかけるように彼女は言う。
「頑張って飲みましょう~。」
彼女は再びキッチンに行くと氷の入ったグラスを二つ持ってきた。僕はボトルを手に取るとアルコール度数を調べる。
38度。
オーケー、体温なら寝込んでいる。そんな僕を放置して彼女はグラスに注いでいく。
「なにがでるかな~、なにがでるかな~、なにがでるかなちゃらららん。」
オーケー、今日の当たり目は「芋虫」だ。
「ざんねーん。あたしははずれで~す。どーぞ。」
芋虫の出なかったボトルを覗いてから僕のほうに差し出してくる。僕は黙ってボトルを傾けていく。褐色の液体が注がれパキパキと氷のなる音がする。頬杖をついてそれを見つめる彼女。
「でたー!!!」
僕の手が止まる。なんてこった。出ちゃった。彼女が当たり目が出たときの音楽で騒ぐ。
「おめでとー!おめでとー!!」
僕は小堺さんに操られて「なんでこ~なるのかなっ!!」というセリフに合わせて欽ちゃん飛びをするライオン君を想像していた。ぼくの定説に、「グサノロホのボトルの中には芸人が住んでいる」という項目を新たに追加しておこう。
「ちょっと待ってて。」
そういって彼女が台所から何か持ってくる。
「どーぞ。」
「なにこれ?」
「つまようじ。」
「・・・・・・。」
「そのほうが食べやすいでしょ?」
まちがいない。君の言っていることは正しい。
「通はこれをつまみにするそうです。」
「なるほど、実に頼もしいつまみじゃないか。」
僕は爪楊枝に刺さったイモムシを見つめる。モコモコとした胴体は本来白いものだったのだろうか。すっかりと褐色がかっていてそれがやけにリアルだ。頭の部分は赤黒くなり、つややかに光っている。
僕は一応彼女に聞いてみる。
「食べなきゃだめかな?」
「ダメ。」
暗闇の中の光りにはいつだって届かない。僕の心細い期待もまた虚しく砕け散った。僕は思い切ってイモムシを口の中に放り込んだ口の中でコロコロとイモムシが転がる。出すわけにも飲み込むこともできなくなり口の中でモゴモゴしている。彼女は好奇心旺盛な顔つきで僕を見ている。
「早く!噛んじゃえ!!」
「むいだよ!!」
モゴモゴとしゃべる僕。
「男らしくないな~。噛め~。3,2,1」
悪魔のカウントダウン。
「ゼロー!!!」
僕は諦めてイモムシを奥歯で噛む。
「どう??」
プチっという音。そんな想像した音とは違い「グニュ」っと音を立ててつぶれる。同時に口の中にアルコールの香りが充満する。僕は口を半開きのまま動けなくなった。
「はい!これ飲んで。」
何食わぬ顔で彼女は38度のグサノロホを突き出してくる。
「これや飲めらいよ!!」
僕は怒鳴りながらもコレしか流し込む術はないとグラスを手に取るとそれを流し込んだ。
アツイ・・・。喉から食道を通っていく液体が手に取るようにわかる。そしてその流れの一番前にはイモムシがいるんだ。僕は再び口を半開きのまましばし固まる。
「ねえねえ、どんな味だった?」
僕は少し考えて、
「世界の終わり。」
「終わらなくて良かったね?」
「もっともだね。」
「もしも、ここが世界の終わりで、外に出れなくなったらどうする?」
話が一気に面白いほうへ傾いた。コレはなにかの挑戦状だろうか。僕はひとしきり考えた後で
「ん~、悪くないね。」
僕は一番クールで一番的確なセリフを選び出した。
彼女はこの言葉にうっとりしているのだろうか。じっと遠くの方を見つめながらつぶやいた。
「あたしは嫌だな~。」
な~んだコラー!!じゃあ聞くな!!
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