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【笑説】憧れの女の子の部屋(最終章)

女の子の部屋

「さあ、飲みましょう。」

ジャージ姿の彼女が言う。

憧れの女の子の部屋で、僕はあずき色のジャージを着た女性と酒を飲んでいる。こんなシチュエーション誰が想像でき、誰がそこに色気を見出すだろうか。新宿のキャバレークラブをくまなく探したってないだろう。なぜならニーズがないからだ。誰も求めていないんだ。

僕はこの部屋に求めたものを何一つ得ることが出来ず、まったく求めていないものを与えられた。おまけにテキーラでかなり酔っている。

帰りたくなってきた。僕は最後の掛けに出た。

「お酒もいいんだけどさ、風呂に入りたいな。」

僕がまだ見ていない場所。ここしかない。

「ちょうど良かった。もうお湯ためてあるよ。」

きっと普通の状態の僕ならばこの子を気の利く女性だとおもったのかもしれない。今は疑いの念ばかりだ。
きっとこの部屋の風呂にはバラの花びらなんか浮いていない。バスクリンだって入っていないだろう。ひょっとしたら脱臭炭だって置いてあるかもしれない。

「ねえ、風呂って普通の風呂だよね?」
「え?普通っちゃ普通だよ。でも今日は特別にあるものを浮かべてあるから、良い香りがただよってるよ。」
「ほんとに?やばい、ちょっと楽しみかも。」

半信半疑ではあったが別に入るには支障はないだろうし、せっかく入れてもらえるんだから入らない手はないな。そう思ってみることにした。
彼女に無地のバスタオルをもらって僕は風呂場のガラス扉をガラガラとあける。
湯船に丸い球がたくさん浮いている。辺りには良質なヒノキのにおいがただよっている。
丸い球を手に取ってみる。

ヒノキボールだ。

僕はヒノキのにおいただよう風呂場で森林浴のように大きく息を吸い込んで、そのまま大きなため息をついた。

今日は帰ろう。僕は風呂に入るのをやめて帰ることにした。

部屋に戻ると彼女は変な格好をしている。

「あれ?早いね?」
「いや、それよりなにやってんの?」
「ヨガ。」
「ふーん。」

 

僕はもう驚かない。

「ごめん、急用思い出したから帰ることにするよ。」
「え~?残念だね~。せっかく布団も敷いてあるのに。」

そう言いながら彼女はトラの絨毯を指差す。

「え?これって絨毯でしょ?」
「絨毯兼布団だよ。」

彼女はトラの口をパクパクと開いている。

「こっから入るの。」
「良い夢を見れそうだね。でも残念ながら今日は帰らなくちゃならないんだ。」
「そっか。ちょっとまって。お土産もっていって。」
「お土産?」

彼女はキッチンでなにやらタッパーに詰めて持ってきた。そして僕に手渡す。やや温かい。

「なにこれ。」
「味噌汁。」
「ありがとう。」

お土産に汁モノ。タッパーでお持ち帰り。受け取ると僕は玄関に向かう。彼女は玄関の照明をつける。
しかしあまり明るくならない。おかしいなと思って照明を見上げる。

長方形の照明で、緑色の光りの中心に、真っ白い人が走っている。

非常口だ。こんな照明を玄関の照明として採用する人がいるなんて。いまの僕にとってはおあつらえ向きだ。はやく脱出しなくてはならない。

「それじゃ、また。」
「うん、気をつけて帰ってね。」
「外は暗いからここまででいいよ。」
「もちろんそのつもり。」
「話が早くて助かるよ。」

互いに手を振ると。彼女は笑顔でそういうと扉を閉めた。

カチャ、シャーーーカシャン!!

そんな音を背に僕は階段を降りると駅の方へと歩き出した。夜風が火照った体を撫でる。月の綺麗な夜だった。

色んなことを思い浮かべながら、ゆっくりと、上を向いて歩いていく。

味噌汁がこぼれないようにゆっくりと・・・。

涙がこぼれないように上を向いて・・・。

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