【小説】憧れの女の子の部屋(第1章)

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今回は「憧れの女の子の部屋」です。今作。自分で言うのもあれですけど、面白いです。自分で読み返して、何度も吹き出してます。ほんと自分で言うのもあれなんですけど、後半にいくにつれてどんどん面白くなります。

女の子の部屋

僕は二十歳で、その子も同じだった。二十歳の男とはいつの時代だってちょっとシャイで、やぶからぼうで、成人をしていてもいまだにどこかに童心秘めている。一方二十歳の女の子とはいつの時代だってもう十分に成人していて、若く見受けられるその裏に、母性本能、母の存在が影を落とし始めるころだ。
同い年の男女には必ずしも共有できない感情があり、そしてそれこそが互いの存在意義として成立するのかもしれない。

一方、僕たちはというと、僕は二十歳のわりには大人びていた〔あるいは大人ぶっていた〕し、常にクールにその空間にあることを意識した。その子は逆に、いつも失敗ばかりで、「おてんば」という言葉がふさわしい、まだ十代のあどけなさ残るはつらつとした性格だった。

僕らの間に立ちはだかったこのギャップは、出逢った当初こそ僕らを隔てていたが、何度か遊びに言ったり飲みに言ったりする間に自然消滅し、今では引き寄せあう引力の役割をしている。

まだ付き合ってもいない女の子の部屋に遊びに行くこと。それは二十歳の男にとってはちょっと気の引ける、しかしながらいつだって憧れだった。禁断の果実をもぎ取る行為、まさしくそれだった。

そしてそんな禁じられた行為の引き金を引いたのは僕だった。

いつも通り飲みに行った帰り路、僕らはなんとなく互いに会話を探していた。決していやらしい意味もなくなんとなく口を開く。

「そういえばおまえって一人暮らしだよね?」
「え?」

彼女はぼくから発信する第一声はいつだって聞いていない。

「おまえ一人暮らししているんだよね?」
「うん、そうだよ~。」
「家事とかちゃんと出来るの?」
「どうかな~。普通に生活してるから、出来てるんじゃん?」
「ふ~ん。ご飯は?」
「カレーとか?」

でた。得意料理をカレーという女は決まって料理が出来ない。
と、誰かが言っていた。

「ほんとに~??怪しいな・・・。」
「できるよ~!!レシピみれば。」

逆にレシピを観て出来ないやつのほうが天才だ。しかもカレーライス。料理の出来ない女はいつだってレシピをみれば、とか、お菓子は出来るとか言う。
と、誰かが言っていた。

「絶対に出来ないでしょ?コンビニ弁当ばっかり食ってるんじゃないの?」
「出来るってば!!」
「じゃあ、今度喰いに行っても良い??」
「良いよ!絶対においしいから。」

かくして僕は彼女の部屋に潜入する権利を獲得し、同時に禁断の果実を摘む権利を得た。
活発で負けず嫌いの女は、プライドをくすぐるとその気になる。
と、どこかの週刊誌に載っていた。

そして翌週。僕は今、彼女と彼女の部屋に向かっている。
バイトが終わって僕らは井の頭線に乗り込む。二駅も乗ると彼女の合図で僕はその駅に降りた。
初めて降りる駅、そして僕は女の子の部屋に行くんだ。好奇心とはしゃぐ気持ちを抑え僕は改札を抜ける。

ティンコーン!!

そして僕は無機質な両翼に足をかけられる。ここぞという時にはいつだって行く手を阻んでくる。
定番だ。
実に定番だ。
僕の定説では、自動改札機の中にはお笑い芸人が住んでいる。半ば怒るように僕はその両翼を跳ね除けてアクセルを踏み込む。そして心にはブレーキを・・・。

あとから来る彼女が、

「え?良いの??」

と言った。

「良いんだよ。あいつらが悪い。」

多分僕が悪い。すごすごと戻り、駅員さんに頭を下げて処理をしてもらう。

男ってのは余裕がなくなるとやけに強気に、そして荒ぶったりするものだ。そしてそれがカッコいいと神よりも信じている。女の部屋に行く俺が動揺なんかしちゃいけない。その感情が僕を高ぶらせた。

Be cool! Be calm! Beautiful!

よくわからなくなってきた。僕は先陣を切って突き進む。

「え?こっちなんだけど?」

彼女の声で僕は我にかえる。そっか、俺、道知らねえんだ・・・。

「ごめん、ちょっと待ってね。」

僕はそういうと大げさに弧を描いて進み、ポケットの中のゴミをゴミ箱に捨て、彼女の方向に向かった。

「ごめんごめん!!ゴミを捨てたくてさ。」

うまくごまかせた。

「こっちにもあるのに・・・。」

彼女の進む方向にも同じようにゴミ箱があった。なんだってこの駅にはこんなにゴミ箱があるんだ。エコだかクリーンだか知らんが、せめて僕が来たときくらい撤去して欲しいものだ。僕は彼女の方にあるゴミ箱を蹴飛ばしてやろうかと思い、そしてすぐに思い直した。

僕はクールだ。

彼女に追いつくと僕はタバコを吸い始める。

「ごめん、この街は路上禁煙なんだけど?」
「へえ~、近代的だね。」

別に近代的ではない。エコだかクリーンだか知らねえが、僕が来たときくらいは自由に歩かせて欲しいものだ。僕は適当に火を消すとポケットから携帯灰皿を出してそこに捨て、またポケットにしまった。

「へえ~、意外~!携帯灰皿なんかもってるんだ?」
「あたりまえじゃないか。世の中、エコの時代だぜ?」

僕は欧米人顔負けのジェスチャーで大げさに両手を広げる。

「エコロジー。」

彼女は言う。

「クリーンネス。」

僕は言う。そして足元の空き缶に軽くつまずく。実に茶番だ。

「ねえ、こんな聞き方をするのはもしかたら失礼かもしれないんだけれど、あなたは女の子の部屋に来るのは初めて?」
「いや、何度かね・・・。」

何度か想像したことはある。そこでは僕は男らしく、そして優雅に振舞っている。

「へえ~。いろいろ経験してるんだね?」
「おいおい、二十歳だぜ?」

二十歳と言う響きに僕は酔いしれる。

「ふーん。ちょっと残念かも。」
「初めてだよ。僕はいわゆるプレイボーイじゃないんだ。」

僕は嘘つきだ。具体的に言うと奥手なんだ。そしてモテない。

「それは安心しても良いってことかしら?」
「場合によっては。」
「T・P・O。」
「タイム・プレイス・オケイション。」

悪くない。自分のペースに持ち込むんだ。

一般に職場で厳しい女は家に帰ると甘えたがりという。そして人前で元気な女は部屋ではとても静かだとも聞く。公衆の面前と我が家の手前、そこにギャップが生じる人間は多い。僕はそんな彼女の新しい一面に興味があった。そんな意外な一面を拝めると良いのだが・・・。

「もうすぐだよ。」