【笑説】憧れの女の子の部屋(第2章)

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女の子の部屋

「もうすぐだよ。」

彼女の元気な声が僕の心に響いてくる。
もうすぐ憧れの女の子の部屋。きっと玄関には女の子らしい香りが漂い、キレイに整頓された机にはミッキーとかミッフィーとかケロッピーとかのぬいぐるみが並んでいるんだ。絨毯はフカフカで、台所はシンクがクレンザーで磨かれて、トイレには花が飾ってあって、バスタブにはバラの花びらがたくさん浮いているんだ。

もうすぐ僕はその秘密の花園へ足を踏み入れることになる。僕はクールにため息をついた。

「もうすぐだよ」と言われてから10分くらい歩いただろうか・・・。多分、「もうすぐ」というタイミングを彼女は間違っている。

「結構遠いね?」
「そうかな?車なら5分だよ?」
「え!!?車持ってるの?」
「持ってない。」

真顔でそう応える彼女の横顔を僕も真顔でみている。

じゃあ、なぜ車で言うんだい?

「ここだよ。」

彼女は紹介するように自分のアパートを指差す。僕はその方向に目をやる。二階建てのアパートは西洋チックで、いかにも女の子に愛されそうな可愛らしい建物だった。

「二階だよ。」

僕は案内されるがまま二階に上り、そしてドアの前に立った。彼女がキーを差し込み、ひねる。
カチャ。
当たり前のように鍵が開き、そして扉が開かれた。

「ここでちょっと待っててくれるかな?一応、簡単に片付けたいから。」

僕はうなずくと彼女はにっこりと笑って部屋に入り扉を閉めると早々に鍵をかけた。

「鍵かけなくたってちゃんと待ってるから!」

カチャカチャ、シャーーー、カツン。なぜかチェーンも締められる。

なぜだい?

僕はほら、待っててと言われたのに無理やり部屋に侵入しようとして、細い針金でピッキングするようなタイプの人間じゃないだろう?鍵は良い。鍵までは理解しよう。世の中物騒だからね。しかしチェーンは納得できない。そんなことを考えながら部屋の前で待つ。

なんだか変な光景だ。こんな可愛らしいアパートの部屋の前で暇を持て余す男。

コツコツコツ。

誰かが二階に上がってくる音。うわ~最悪だ。僕は今、どう見積もっても不審人物じゃないか。・・・。
その誰かは二階に到着し僕を見るや否やビクッ!!とする。

そりゃそうだ。君は正しい。誰だってびっくりするさ。

住人らしい若い女性で僕の横を素通りする。僕はなぜか会釈をする。こんなとき人は自分の安全性を主張するために会釈をしてしまうものだ。女性は僕の会釈を無視し早々に自分の部屋に入る。

カチャ。

カチャカチャ、シャーーーー、カツン。

そりゃそうだ。君は正しい。誰だってチェーンするさ。会釈効果ゼロ。
僕はたった一人で二人の女性から部屋を締め出された気分になる。

彼女が「ちょっと待って」と言ってから30分が経つ。

僕は彼女の体内時計を壊してしまいたくなった。そして待たされる30分、ずっとなぜチェーンまで・・・と言うことに思考を巡らせていた。

程なく扉が開く。

「おまたせ。どうぞ。」

たっぷりとした笑顔で彼女は言う。

「ちょっと長いな~。30分はきついよ~。」
「ふふ、どん兵衛なら6個分だね?」

何言ってんだこの女。

「カップヌードルなら10個だよ。」

僕は抗議する。

「私はシーフード味が好き。」

何言ってんだこの女。

「ごめんごめん!!許して!」

彼女は片手を顔の前に立ててゴメンをする。まあいいや。

「どうぞ。初公開のうちで~す。」

僕は一気に緊張する。きっと芳香剤の良い香りが漂うだろう玄関。僕は足を踏み入れ胸いっぱい空気を吸い込む。

おおおおーーー!!無臭だ。偽りのない無臭だ。僕はコレまでにこんなにも無臭の玄関に足を踏み入れたことがない。それは完璧なまでに作り上げられた無臭だ。女の子の香りなんてまったくしない。

実にがっかりじゃないか。僕は何気なく下駄箱の上に置いてある消臭剤を観る。

脱臭炭。

僕はエステー化学の発明を恨む。まあいい。きっと女の子らしい部分があるはずだ。

「おじゃましま~す。」

僕は案内されるがまま入っていく。

「ちょっと散らかってるけど・・・。」

本当だ。散らかってる。彼女は30分も何をやっていたんだ・・・。
ぐるりと部屋を見渡して、絨毯に眼を向ける。フカフカな絨毯を予想していた僕は目を見張る。

トラがど真ん中で寝ている。毛皮だけのトラ。

これを買う人って、金持ちだけじゃないんだ。僕は既成のイメージを消し去ることにする。

「ねえ、何でトラにしようと思ったの?」
「なんでって、生まれた順番だからしょうがないでしょ?」
「干支じゃねーよ。」
「違うの?」

僕は諦めてトラの絨毯を指差す。

「あ、これ?だって頭がクッションになっているんだよ?良くない?」

そこ!?

クッションを買う手間を省くためにこの絨毯を選んだのか?

「良いね。一石二鳥だ。」

僕は諦めて適当に相槌を打つと話をそらす。

「結構広いね?1DKだし。」
「うん。いいでしょ?ところで1DKのDってなんなのかな?」
「え?知らないの?ちなみになんだと思う?」

彼女はうーんと言いながら一通り頭を傾げた後で、

「DEATH?」

死亡。

1・デス・キッチン。

君はコレまでよく生きてきたと思うよ。

「ダイニングだよ。食卓って感じかな。」
「ああ!ダイイングメッセージの?」

死亡。

彼女はどうしても死にたいらしい。トラにでも喰われてしまえば良いんだ。

「そんなところかな。」

僕は諦めて言う。